28.html (7101B)
1 <!doctype html> 2 <html> 3 <head> 4 <meta charset="UTF-8" /> 5 <link rel="stylesheet" href="../style.css" /> 6 <link rel="icon" href="/public/minerva-juppiter.svg" /> 7 <title>豚饅</title> 8 </head> 9 <body> 10 <header> 11 <h1>Blog</h1> 12 <h2>by Minerva_Juppiter</h2> 13 <nav> 14 <a href="/">Home</a> 15 / 16 <a href="/about">About</a> 17 </nav> 18 </header> 19 <article> 20 <h1>豚饅</h1> 21 <h3>2026-06-15</h3> 22 <p>懐かしい話を思い出したので。</p> 23 <p> 24 小学5年生の頃だったか、家族で神戸ルミナリエを見に行った。<br /> 25 両親が大学生の頃、阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)が起きた。<br /> 26 その追悼の灯りなのだから、私よりも幾らか思い入れが強かったように思う。<br /> 27 私はというと、あまり当時の話は聞かなかったが、その代わりに、おかしなほど何度も読んでいた本にそのことを聞いていた。<br /> 28 小学校の図書館は、広い絵本のコーナーがあって、絨毯が敷いてあった。<br /> 29 高学年ともなると絵本コーナーに群れる人は少なかったが、それでも、私がずっといた、ノンフィクションのコーナーに来るような人はそうそういなかった。<br /> 30 もちろんフィクションも好きだったのだが、それはとても一部で、フィクションの、都合の良いフィルターがかかった世界がいかにも子供向けで、好かないものが多かった。<br /> 31 それでよく読んでいたノンフィクションの本で「どっかんぐらぐら」というのがあった。<br /> 32 阪神・淡路大震災当時の子供たちによる文集で、綺麗な文章から拙い文章まで様々だったが、それぞれの視点で同じ出来事を、或る人は衝撃的に、或る人は淡々と、或る人は読書感想文みたいに優等生な文を書いていた。<br /> 33 私はその本を何週間も連続して、また、連続しなくとも何度も借りて読んだ。<br /> 34 そんなことはどうでも良くて、とにかく私は、ルミナリエを見に行った。 35 </p> 36 <p> 37 休日だったから、人が多かった。今みたいに予約制が導入される前なので余計に。<br /> 38 なにか別の用があって神戸に来ていたのだが。折角だから見ておこうと言って、すこし覗くような気持ちで向かった。<br /> 39 が、人が多かった。行列が長かった。明かりの疎らな暗いビルの間を大勢の人がのそのそと歩いていた。<br /> 40 周りの大人達は背が高くて、黒くて、怖かった。<br /> 41 父親に肩車をされている小さな子どもを見て、少々羨ましかった。<br /> 42 行列は長く、何度か曲がった先の道端に露店が出ていた。<br /> 43 両親は有名なお店だと言っていたが、そんなことを知る由もない私は、あまり乗り気ではなかった。<br /> 44 というより、それどころではなかった。人の多さ、日が暮れてからの一段と凍てつく風に、慣れていない行列のフラストレーション。<br /> 45 私は不快な心地に泣きそうになりながらも、黙って列にいた。<br /> 46 何度も帰りたいと言おうと思ったのだけど、ここまで待った時間が無駄になってしまったらと思うと、悔しくて、言い出さなかった。<br /> 47 その間に親が露店で豚饅を買ってきた。買ってきたのが父だったか、母だったかはもう憶えていない。<br /> 48 私が空気に耐えかねて「寒い」と言うので、母は私に豚饅を渡してくれた。<br /> 49 それが私には温かくて、美味しかった。<br /> 50 ただ、とにかく美味しかった。<br /> 51 皇帝の皇の字が入った店名で、偉く大層な名前だなと思ったと同時に、その嫌味が吹き飛ぶほど美味しかったのを憶えている。<br /> 52 そこからものの10分くらい歩くと、辺りの雰囲気が変わってきた。<br /> 53 当時、まだガラケーからスマホへの過渡期の終わりかけで、実際に私の両親もガラケーを使っていた。<br /> 54 そんな中、スマホを頭上に掲げて写真を撮る人があった。私はその人のスマホの画面から見えるオレンジ色の光に当たって、ネタバレを食らってしまうような気がした。<br /> 55 今はそんな光景は当たり前で、何も思わなくなったが、そういう使い方があるのかと、半ば感心したものだった。<br /> 56 後は早かった。私の身長でも電飾が見えるように近づいてきた。<br /> 57 私はとっておきの最後の一口を食べながら、その光を見た。<br /> 58 泣いた。どちらで泣いたのかは定かではない。ただ、とても美しかった。<br /> 59 涙で滲んでいて、綺麗に見えているわけではないのだけど、それでも、そんなことがどうでも良いくらいに美しかった。<br /> 60 追悼の灯りがこんなにも美しいものだとは知らなかった。<br /> 61 日は暮れきってさむしい冬の夜に、数百mも歩いてビルの影になってしまえば見えないのに、ここはこんなにも光に満ちている。<br /> 62 両親には悪いことをしたと思う。前々からぐずっていた私が、ついに泣き始めたのだ。声をあげないにしても。全く、意味が違うことを説明するような余裕はなかった。 63 </p> 64 <p> 65 とても長々と書いたが、そういうわけで、皇蘭の豚饅は私にとって思い出深い味になった。<br /> 66 思い出してこれを書いている今でさえ、涙が溢れてくる。私の中のとても大事な光景の一つだ。<br /> 67 最近は年々規模が縮小していて、来場者数も減少しているらしい。私は今は、近畿圏に住んでいないので、気軽に行くことは難しいが、また行って見ておきたいものだなと思う。 68 </p> 69 </article> 70 <footer> 71 <p>@all right reserved by Minerva_Juppiter</p> 72 </footer> 73 </body> 74 </html>